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コラム

「ITは対象外」は誤解?ものづくり補助金で顧客管理システム導入を成功させるには

更新日:6月19日

ものづくり補助金。この補助金に対して、「製品開発」や「設備導入」が主な対象だとお考えの方も多いのではないでしょうか。

「クラウドシステムやAIツールは、どうせ対象外なんだろう……」

そういった声を耳にすることも少なくありません。

しかし、実はそうではありません。一定の要件を満たせば、ITシステムの導入であっても、ものづくり補助金の申請・採択は十分に可能です。


現代ビジネスにおいて、ITは単なる効率化のツールに留まらず、新たな価値創造や生産性向上、さらには事業変革の中核を担う存在となっています。

本稿では、「IT=対象外」という誤解がなぜ生じやすいのかを解説し、どのようなITシステム導入がものづくり補助金の対象となりうるのか、具体的な事例を交えながら詳しくご説明します。貴社のIT投資をものづくり補助金で実現するためのヒントが、ここにあります。


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「ITは対象外」と誤解されがちな背景

まず、ITシステムがものづくり補助金の対象外と誤解されやすい理由から見ていきましょう。

ものづくり補助金の正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。その名の通り、「生産性の向上」が大きな目的です。この「生産性向上」という言葉から、製造業における生産ラインの改善や、新製品開発による付加価値向上といったイメージが先行しやすい傾向にあります。


また、補助金制度の特性上、「投資に対して確実な成果が見込めるか」という点が非常に重視されます。ここで誤解を生みやすいのが、PoC(概念実証:Proof of Concept)やMVP(最小限機能プロトタイプ:Minimum Viable Product)のような、実現性がまだ不確定な段階のシステム開発です。

これらの取り組みは、新しい技術やアイデアの実現可能性を探る初期段階であり、事業としての収益性や成果が不明瞭です。そのため、補助金審査では対象外とされる傾向にあります。つまり、「とりあえず作ってみて、うまくいけば収益化できるかもしれない」といった、アイデア先行型の開発は、補助金の趣旨とは合致しないと判断されることが多いのです。


この「実現性が不確定な開発は対象外」という原則が、「ITシステム全般が対象外」という拡大解釈に繋がってしまったのが実情でしょう。しかし、これはあくまで一部のケースであり、適切に計画され、明確な目的を持ったITシステム導入であれば、採択のチャンスは十分にあるのです。



採択の可能性があるIT導入ケース:ものづくり補助金に合致する「本質」

では、具体的にどのようなITシステム導入であれば、ものづくり補助金の採択対象となりうるのでしょうか。ものづくり補助金の制度趣旨に合致し、評価を得やすいIT投資には、いくつかの共通要件があります。それは、単に「新しいシステムを導入する」ことではなく、「事業の生産性向上や新たな価値創造に、いかに貢献するか」という本質的な問いへの明確な回答を持っているかどうかです。

以下の評価観点に該当するITシステム導入は、ものづくり補助金において高く評価される可能性があります。


評価観点①顧客ニーズの実在と課題解決への貢献

最も重要なのは、導入しようとしているITシステムが、既存顧客からの具体的な要望や、事業運営における明確な課題解決に直結していることです。


  • 既存顧客からの問い合わせ対応に時間がかかりすぎている。

  • 顧客情報が散在しており、一元的な管理ができていない。

  • 顧客ごとのニーズに合わせた提案ができておらず、機会損失が生じている。


このように、「誰の、どのような課題を、どのように解決するのか」が明確であることが、採択への第一歩となります。単に「最新のシステムだから」という理由ではなく、顧客の不満を解消し、より良いサービスを提供するための具体的な手段としてITシステムが位置づけられていることが不可欠です。


評価観点②事業性・収益性への明確な寄与

導入するITシステムが、投資に見合うだけの売上増加や利益向上に、現実的に貢献できるかどうか。これも極めて重要な評価ポイントです。

例えば、


  • 顧客管理システム導入により、顧客への再提案機会が増加し、LTV(顧客生涯価値)がX%向上する見込み。

  • 生産管理システム導入により、生産リードタイムが短縮され、納期遅延による損失が年間Y円削減できる。

  • AIを活用した需要予測システムにより、在庫最適化が進み、廃棄ロスをZ%削減できる。


といったように、数値目標を伴って、そのIT投資がどのように事業の収益構造を改善するのかを具体的に示す必要があります。単なる「業務効率化」に留まらず、それが最終的に企業の財務状況にどう良い影響を与えるのかを論理的に説明できることが求められます。


評価観点③新サービス・新価値の創出と既存業務の革新

ものづくり補助金は、「革新的な製品・サービスの開発や生産プロセスの改善」を促す側面も持ち合わせています。ITシステムが、単なる既存業務の効率化だけでなく、新たなサービス提供や、既存業務を根本から変革するような価値を生み出すのであれば、採択可能性は大きく高まります。


  • AIレコメンド機能を備えたCRM(顧客関係管理)システム導入により、顧客一人ひとりにパーソナライズされた提案が可能になり、顧客満足度や再契約率が向上する。

  • IoTセンサーを活用した遠隔監視システム導入により、顧客の設備故障を未然に防ぎ、新たな保守サービスを提供できるようになる。

  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入により、これまで手作業で行っていたデータ入力や請求書作成業務を自動化し、人的ミスをなくし、従業員はより創造的な業務に集中できるようになる。


このように、ITシステムがもたらす効果が、顧客にとっての新たな価値創造や、企業の競争力強化に繋がる革新性を伴っているかが問われます。


評価観点④生産性向上(業務時間の削減、人的ミスの減少、DX推進)

直接的な収益増加だけでなく、業務プロセスの効率化による生産性向上も、ものづくり補助金の重要な評価ポイントです。


  • 手作業によるデータ集計業務に月間X時間費やしているが、BIツール(ビジネスインテリジェンスツール)導入により、この時間をY%削減できる。

  • 複雑な情報共有が原因で、部門間の連携ミスが頻発していたが、グループウェア導入により、情報伝達がスムーズになり、人的ミスが大幅に減少する。

  • 紙ベースの申請業務を電子化することで、承認プロセスが迅速化し、意思決定のスピードが向上する。


これらの効果は、単なるコスト削減だけでなく、従業員の残業時間削減、ストレス軽減、そしてより付加価値の高い業務への集中を促し、企業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に繋がります。生産性向上は、ものづくり補助金の根幹をなす要素であり、ITシステムがこれにどう貢献するかを具体的に示すことが重要です。



具体例:ものづくり補助金で採択されうるIT導入計画

上記の評価観点を踏まえると、例えば以下のようなITシステム導入計画は、ものづくり補助金の申請を検討する価値が十分にあります。


例1:生産プロセスの最適化と品質向上

「当社の製造ラインでは、各工程の進捗状況や品質データを手作業で記録しており、リアルタイムでの把握が困難なため、ボトルネックの特定や不良品の早期発見が遅れるという課題を抱えていました。そこで、IoTセンサーを組み込んだ生産管理システムを導入します。


このシステムは、各製造機器に設置されたセンサーからリアルタイムでデータを収集し、生産量、稼働状況、不良発生率などを一元的に可視化します。これにより、生産管理者や現場担当者は、いつでも生産状況を把握でき、異常発生時には即座に対応が可能となります。


また、蓄積されたビッグデータをAIで分析することで、不良発生の原因を特定し、予防保全や品質改善に繋がる具体的なアクションを導き出します。これにより、製造リードタイムを15%短縮し、不良品発生率を10%削減することで、生産効率の向上と製品品質の安定化を実現し、ひいては顧客満足度向上と新規顧客獲得に貢献します。」


例2:顧客管理のデジタル化とパーソナライズ提案の実現

「当社では、顧客情報や応対履歴をエクセルで管理しており、情報検索に時間がかかり、提案の質も担当者によってばらつきがありました。この課題を解決するため、AIレコメンド機能付きのクラウド型CRM(顧客関係管理)システムを導入します。


このシステムにより、顧客の属性、購入履歴、問い合わせ内容、過去の提案内容を一元的に管理可能になります。さらに、AIが過去のデータから顧客の潜在ニーズを分析し、最適な製品やサービスを自動でレコメンドする機能を活用することで、担当者のスキルに依存しない、高品質かつスピーディなパーソナライズ提案を実現します。


これにより、既存顧客への再提案機会が増加し、クロスセル・アップセルに貢献し、顧客生涯価値(LTV)を20%向上させることを目指します。また、顧客対応の属人化を防ぎ、顧客満足度を向上させることで、再契約率も5%向上させ、持続的な売上増に貢献します。」



これらの事例に共通するのは、単なるシステム導入ではなく、そのシステムが「誰の、どのような課題を解決し、どのような具体的な成果をもたらすのか」が明確である点です。そして、その成果が、ものづくり補助金が目指す「生産性向上」や「新価値創造」に繋がっていることを具体的に説明できるかどうかが、採択の鍵となります。



「スタートアップ型開発」との明確な違い

ここで強調したいのは、上記のようなITシステム導入計画と、「スタートアップ型開発」との明確な違いです。


スタートアップ企業が行う開発は、多くの場合、「まだ世の中にない新しいアイデア」や「潜在的なニーズの掘り起こし」を目的としたものです。PoCやMVPといった段階を経て、市場に受け入れられるかどうかを探りながら、試行錯誤を繰り返すのが特徴です。これは創造的で挑戦的な取り組みですが、事業としての安定性や確実な成果が見えにくい初期段階では、補助金の対象としては馴染みにくいのが実情です。


一方、ものづくり補助金で対象となりうるITシステム導入は、“ニーズの掘り起こし”ではなく、“既存顧客や明確な市場ニーズに基づく改善・進化”である点が決定的に異なります。


  • アイデア先行で、まずはシステムを作ってから市場を探すのではなく、

  • 実際の業務フローや顧客対応から洗い出された、明確な課題が存在し、

  • その課題解決のためにITシステムを導入することで、具体的なバリューチェーン(価値の連鎖)改善につながる


このような構成であれば、ITシステムも「ものづくり」として認められる余地が十分にあります。つまり、「面白い仕組みが作れそう」という発想からではなく、「既存の顧客にどう価値を届け、既存の業務をどう改善するか」という具体的な視点からITシステム導入を検討することが、ものづくり補助金採択への近道となります。



制度としての補足(2025年時点)

2025年現在、ものづくり補助金の制度は、ITシステム導入を検討する中小企業・小規模事業者にとって、魅力的な支援策となっています。


  • 補助額上限

    原則として750万円ですが、従業員数や賃上げ要件を満たすことで最大1,250万円まで引き上げられる類型もあります。大規模なIT投資であっても、十分な支援が期待できます。

  • 補助率

    中小企業は1/2、小規模事業者(従業員数20人以下、商業・サービス業の場合は5人以下)は2/3です。これは、投資額の半分から2/3が補助されるため、自己資金の負担を大幅に軽減できます。

  • 対象経費

     ITシステム導入においては、外注費(システム開発を外部に委託する場合)、システム開発費(自社開発の場合)、クラウド利用料(SaaSなどの月額利用料)などが対象となります。ただし、汎用性の高いPC購入費用や、通常の業務で利用するソフトウェアライセンス料などは対象外となる場合が多いので、事前の確認が必要です。

  • 評価視点

    補助金の審査においては、提案する事業計画が、以下の点にどれだけ貢献するかが評価されます。

    • 付加価値額の向上

      新しいITシステムが、どれだけ企業の収益力や価値創造能力を高めるか。

    • 人件費の増加

       生産性向上によって生まれた利益を、従業員の賃上げや雇用拡大に還元する計画があるか。

    • 賃上げ目標

      具体的な賃上げ目標が設定されているか。

    • 革新性

      導入するITシステムが、既存の事業や市場において、どれだけ革新的であるか。

    • その他

      経営状況、事業実施体制なども総合的に評価されます。


これらの制度要件を理解し、自社のIT投資計画がどのように合致するかを具体的に示すことが、採択の可能性を高める上で不可欠です。



まとめ:大切なのは「アイデア」ではなく「実装と成果」

「ITは対象外」という誤解に縛られて、ものづくり補助金という強力な支援策の活用を諦めてしまうのは、非常にもったいないことです。現代において、ITシステムは、単なるツールではなく、事業の成長を加速させ、競争力を高めるための「戦略的投資」としての側面を強く持っています。


重要なのは、「面白い仕組みが作れそうだから」といったアイデア先行ではなく、「既存の顧客にどう価値を届け、既存の業務をどう改善し、具体的な成果を出すか」という視点からITシステム導入を考えることです。


もし、貴社の事業において、


  • 既存顧客からの具体的な課題をITで解決したい

  • ITシステム導入によって、明確な売上・利益向上を見込める

  • 業務プロセスをITで根本的に変革し、生産性を劇的に向上させたい


といった要素があるならば、ものづくり補助金の活用可能性は十分にあります。

この補助金は、単に資金を提供するだけでなく、「自社の事業を深く見つめ直し、ITを通じてどのように成長させていくか」という、未来への具体的なビジョンを描くきっかけを与えてくれます。


行政書士事務所みまもりは、補助金申請支援の専門家として、お客様の事業の本質を理解し、ものづくり補助金の採択に繋がる事業計画の策定をサポートしています。ITシステムの導入を検討されているものの、ものづくり補助金の対象になるか不安を感じている方も、ぜひ一度ご相談ください。貴社のIT投資が、ものづくり補助金という追い風を受けて、力強い成長を実現できるよう、全力で伴走させていただきます。

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