士業事務所のIT管理コスト——「お金をかけないセキュリティ」の現実的な考え方
- 5月1日
- 読了時間: 3分
更新日:5月14日
「セキュリティ対策にお金をかける余裕がない」という声をよく聞きます。気持ちは分かります。しかし、この話には前提の誤解があることが多い。
多くの場合、士業事務所に必要なセキュリティ対策のほとんどは、すでに支払っているMicrosoft 365やGoogle Workspaceの費用の範囲内で実現できます。追加費用がかかるものは一部です。「お金がかかる」と思って放置している対策が、実は「今すぐ無料でできる対策」であるケースが多い。

Microsoft 365で「追加費用ゼロ」でできること
多要素認証(MFA)——
セキュリティの既定値群をオンにするだけ。最も効果の高い対策が無料で設定できます。設定時間は5分以内です。「お金がないから後回し」にする理由がない対策の筆頭です。
Entra ID(旧Azure AD)によるアカウント管理——
誰のアカウントが有効か、最後のサインインはいつかを管理画面で確認できます。退職者アカウントの即時無効化も管理画面から数クリックで可能です。
Microsoft Defender(ウイルス対策)——
Windows 10/11に標準搭載。サードパーティのウイルス対策ソフトを購入する前に、Defenderの設定が有効になっているかを確認してください。有効であれば、多くの場合追加のウイルス対策ソフトは不要です。
BitLocker(ディスク暗号化)——
Windows 10/11 Proに標準搭載。有効化するだけで、PC紛失時のデータ漏洩リスクを大幅に低下させられます。設定時間は10分以内です。
Microsoft 365 Business Premiumで追加されること
月額プランをBusiness Basic(約750円/ユーザー)からBusiness Premium(約2,750円/ユーザー)に上げると、以下が追加されます。
Intune(端末管理)——
遠隔ロック・遠隔削除が可能になります。PC紛失対応が劇的に改善されます。MDM管理の有無が、紛失時に「何もできない」か「30分で対応完了」かの分岐点になります。
Defender for Office 365——
メールの添付ファイルと悪意あるリンクの自動スキャン。フィッシング対策が大幅に強化されます。請求書偽装メールを自動でブロックできます。
Purview(DLP)——
業務データの外部持ち出しブロック。退職者の情報持ち出しリスクを技術的に低下させます。
5名の事務所であれば、BasicからPremiumへの差額は月額約1万円です。
コストの正しい比較対象
「月1万円のセキュリティ費用」を、「何もしない場合のリスク」と比較してください。
ランサムウェアに感染して1週間業務停止した場合の機会損失——
1週間の売上が失われるだけでなく、顧問先への信頼損失が長期的な影響をもたらします。
情報漏洩で顧問先1社を失った場合の年間売上への影響——
顧問料が年間30万円の顧問先を1社失えば、月2.5万円のコスト増に相当します。
懲戒請求への対応にかかる弁護士費用と時間——
懲戒手続きへの対応は、時間と費用の両面で大きな負担になります。
これらと比較すれば、月1万円のプランアップグレードは、投資対効果として合理的な判断です。
「高いセキュリティ機材」を買う前に
UTM(統合脅威管理装置)や専用のセキュリティサーバーを提案されることがあります。これらが必要になるケースもありますが、5〜15名規模の士業事務所では、まずMicrosoft 365の設定を整えることの方が費用対効果が高い。
高価な機材を入れる前に、今あるツールの設定を正しく整える——この順番が、士業事務所にとって最も現実的です。「新しいものを買う」より「あるものを正しく使う」ことが先決です。
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セキュリティ研究者・デジタルフォレンジックエンジニア
成田 浩志




