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ノートとペン

コラム

キャラクター制作依頼時の「著作権」・「人格権」・「契約設計」〜法と感情のあいだをつなぐ「最適な選択」の見つけ方〜

近年、ウェブサイト、SNS、商品、広告など、様々な場面でオリジナルのキャラクターを活用し、ブランディングや情報発信を行う企業や個人事業主が増えています。それに伴い、プロのイラストレーターやデザイナーにキャラクター制作を依頼するケースも増加の一途をたどっています。

一見するとシンプルな「イラスト制作依頼」ですが、実はこの分野は、著作権や著作者人格権といった法的権利が複雑に絡み合い、後々のトラブルに発展しやすいという側面を持っています。特に、依頼者側が「お金を払ったのだから、自由に使えるはず」と考えてしまいがちな点に、落とし穴が潜んでいます。


本記事では、行政書士として実務対応する中で見えてきた、「依頼者と創作者、双方にとって納得感のある、最適な契約設計の見つけ方」について、その背景から、譲渡の有無、人格権の扱い、利用範囲の定め方といった「選択肢」を提示しながら解説いたします。法的な条文の適用だけでなく、「創作者が作品に込めた愛情や考え方を、いかに契約書という形で反映させるか」という視点も交え、実践的なポイントを整理してお伝えします。


東大阪市・八尾市エリアでデザイン事業を営む事業者様や、デザイナーにお仕事の発注を検討されている皆様に、参考にしていただければと思います。


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1. なぜ「契約」が必要なのか?:口約束が招く見えないリスクと「感情」の尊重

「知り合いにお願いしただけ」「お金もきちんと払うのだから、問題ないだろう」 このように考えて、キャラクター制作を口約束だけで進めてしまうケースは少なくありません。しかし、法律上は全く異なる側面があります。

イラストやキャラクターといった創作物には、制作された瞬間から自動的に「著作権」が発生し、これは原則として制作した本人(イラストレーター)に帰属します。加えて、著作者には「著作者人格権」という、“改変させない権利”“名前を載せるかどうか決める権利”などが認められており、これらは譲渡すらできない非常に強力な「感情に近い権利」です 。


契約がない状態では、これらの権利はすべてイラストレーターの手中にあり、依頼者側が「勝手にキャラクターを改変してTシャツにプリントした」「サイトに掲載したけど名前を載せなかった」といった行為を行った場合、著作者人格権の侵害として、使用差し止めや損害賠償を請求されるリスクがあるのです 。


だからこそ、契約書は単なる「法律を守るため」の書類ではありません。それは、創作者が作品に込めた「愛情」や「想い」、そして「自分の分身」とも言える創作物に対する深い敬意という非明文化の要素を理解し、尊重しながら、利用する側の自由度を確保するための「対話の証」であり、「信頼関係を可視化するツール」なのです。




2. 「著作権の譲渡」は必須か?:最適な契約形態を「選択する」思考

キャラクターを自由に活用するためには、必ず著作権を譲渡してもらう必要がある、と考える依頼者の方も少なくありません。しかし、これは誤解です。クリエイター側が「著作権の譲渡は行っていません」という意向を示すケースは多く、その背景には合理的な理由と感情的な背景が存在します.


  • クリエイター側の主な意図

    • ポートフォリオ・実績としての使用確保

      制作物の権利者でなくなることで、自身の制作実績として公に掲載する法的根拠が薄くなると懸念するクリエイターは多いです。これは実務上、最も多い理由の一つです.

    • 作品への愛着とコントロール感の保持

      作品は、クリエイターが時間と労力、そして情熱を込めて生み出した「自分の分身」のような存在です。完全に権利を手放すことに抵抗を感じ、自身の作品が意図しない形で改変されたり、過激な内容に使われたりすることへの不安を抱きます。これは著作者人格権とも密接に結びついています.

    • 他のクライアントとのポリシーの一貫性

      多くのフリーランス・クリエイターは、自身のビジネスポリシーとして「著作権譲渡はしない」という方針を一貫している場合があります.


このような意図を理解し、尊重することが、クリエイターとの良好な関係を築き、スムーズな契約交渉を進めるための第一歩となります。


選択肢1:著作権「譲渡」のパターン

  • 目的

    依頼者側が著作財産権を完全に取得し、最も広範な利用自由度を確保したい場合。

  • 特徴

    メリット

    法的には、そのキャラクターの複製、販売、広告利用など、あらゆる経済的利用権を依頼者側が完全にコントロールできます.

    デメリット

    クリエイターは作品の権利を完全に手放すため、相応の対価(制作費に加え、高額な買い取り料など)が必要となります. クリエイターによっては、いかに高額でも譲渡に応じないケースもあります.

    考慮点著作権譲渡後も、著作者人格権は著作者本人に留まるため、別途「著作者人格権不行使の合意」が不可欠です.


選択肢2:著作権「利用許諾」のパターン

  • 目的

    著作権はイラストレーターが保有しつつ、依頼者側が事業に必要な範囲でキャラクターを利用する権利を得たい場合。

  • 特徴

    メリット

    譲渡より柔軟で、クリエイター側も受け入れやすい場合が多いです. 依頼者側も著作権の管理義務を負う必要がありません。

    デメリット

    利用範囲を契約書で明確に定める必要があるため、想定外の利用方法が発生した場合に、都度協議や再契約が必要になるリスクがあります.

    考慮点

    「広範な利用許諾+人格権制限」を組み合わせることで、実務上の自由度を十分に確保できます.


どちらのパターンを選択すべきか?

貴社の事業でキャラクターをどのように活用したいか(限定的か、包括的か)、クリエイターがどこまで権利を手放せるか、そして予算とのバランスによって最適な選択は異なります。



3. 「人格権」の扱いがカギ:ホワイトリスト方式とブラックリスト方式の検討

著作権の譲渡の有無に関わらず、著作者人格権は常にクリエイター本人に帰属し、法律上、譲渡・放棄できません. しかし、この権利の「行使」をどう定めるかが、依頼者側の自由度を大きく左右します。ここでは、実務でよく用いられる二つの方式を比較します。


方式1:ホワイトリスト方式(行使できる範囲を限定列挙)

  • 考え方

    「この範囲なら著作者人格権を行使できる」という具体的な状況を契約書に明記する方式です. それ以外の状況では、原則として人格権を行使しないと合意します。

  • メリット

    • 創作者の感情への配慮

      「この場合は行使できます」と明確にすることで、クリエイター側が「完全に放棄させられた」という印象を受けにくく、尊重されていると感じやすいです。

    • トラブルの具体化

      「これだけは嫌だ」という創作者の具体的な要望(例:過度な性的表現への使用)を直接的に契約に反映できます.

  • デメリット

    • 依頼者側の自由度が制限される可能性

      依頼者側から見ると、「何がOKか」が明確な反面、想定外の利用方法(将来登場する新しいSNS媒体、動画広告、コラボ企画など)が契約書に記載されていない場合、都度再協議が必要になるリスクがあります. 事業の拡張を妨げる要因になる可能性も考えられます。

    • 契約交渉の複雑化

      全ての「行使できる場合」を洗い出すのが難しく、契約交渉に時間がかかることがあります。


方式2:ブラックリスト方式(行使を原則制限し、行使できない場合を限定列挙)

  • 考え方

    「原則として著作者人格権を行使しない」と合意し、「ただし、このような場合は著作者人格権を行使できる」という例外的なケースだけを明確に限定列挙する方式です.

  • メリット

    • 依頼者側の事業展開の自由度が高い

      想定外の利用方法が将来発生しても、それがブラックリストにない限り、原則として自由に活用できます。事業のスピードを阻害せず、柔軟な展開が可能です.

    • リスクコントロールの明確化

      「何をしてもいい」という抽象的な自由ではなく、「これだけはやってはいけない」というNG行為が明確になるため、依頼者側は安心して事業を進められます.

    • 創作者の感情保護

      「これだけは嫌だ」という最低限のライン(例:公序良俗に反する使用、名誉毀損など)を保護しつつ、それ以外の利用については依頼者側に委ねる形となるため、創作者も納得しやすいです.

  • デメリット

    • 文言の工夫が必要

      「原則行使しない」という表現は、クリエイターによっては「完全に権利を奪われる」と誤解される可能性もあるため、契約文言に丁寧な配慮が必要です。


どちらの方式を選ぶべきか?

貴社の事業でキャラクターをどのように活用したいか(限定的か、包括的か、将来の多様な展開を想定するか)、そしてクリエイターとの信頼関係の度合いによって最適な方式は異なります。判断に迷われた際は、ぜひ弊所までご連絡ください。



4. まとめ:キャラクター制作依頼は「契約設計」がカギ。法と感情をつなぐ羅針盤

キャラクター制作依頼は、単に「絵を描いてもらう」行為ではありません。それは「知的財産としての権利処理」であり、同時にクリエイターの「作品に込めた愛情」と「表現へのこだわり」が深く関わるプロセスです。だからこそ、その感情と、依頼者側の自由な運用の両立には、綿密な契約設計が不可欠です。

著作権の譲渡が得られなくても、著作者人格権の行使制限と包括的な利用許諾の組み合わせにより、実務上の使用自由度は十分に確保できます.


行政書士事務所みまもりは、単なる条文を羅列するだけでなく、お客様の事業目的、そしてクリエイターの「作品への想い」や「考え方」という感情の両方を深く理解します。その上で、両者が納得できるような「法と感情の構造的な接続」を、契約という形に落とし込みます。


「キャラクター制作を依頼したいけれど、自由に使っていいのか不安…」

「クリエイターの気持ちも尊重したいが、事業の自由度も失いたくない…」

「描いた作品が、意図しない形で使われないか心配…」


そんなときこそ、事前の契約が関係性を守る設計図となります。行政書士事務所みまもりは、単なる“書類作成”に留まらず、双方の立場や感情に寄り添った実務的・戦略的な契約設計を提案し、あなたの事業がキャラクターと共に力強く成長するお手伝いをいたします。

ご希望があれば、貴社の具体的な事業内容や、クリエイター様との関係性に合わせた、実用的な契約書草案の作成やレビューも対応可能です。


ご相談は随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください


行政書士事務所みまもりは、東大阪市・八尾市エリアでデザイン事業を営む事業者様や、デザイナーにお仕事の発注を検討されている皆様をサポートさせていただきます。

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